ユーロ分裂と円高のシナリオ

ドイツ、フランスから資金が逃げる

欧州周辺国の財政不安が一段と深刻化している。直接的なきっかけとなったのは、7月5日に米系格付け機関のムーディーズがポルトガル国債を投資適格のBaalから投資不適格であるBa2へと、4段階の格下げを発表したこと。格付けが投資不適格に引き下げられると、投資家の中には投資ポートフォリオの中で当該証券を保有することが難しくなるところもある。格下げを受けて、ポルトガル国債はあらためて急落。11%前後で落ち着く気配を見せていた10年債利回りは一気に13%近くまで急上昇した。

 

しかも、財政危機が伝播することへの警戒感から、市場で次なるターゲットとなるのではないかと疑問視されているスペイン国債も売られ、10年債利回りは5%台後半まで上昇。 ドイツ国債とのソブリンスプレッドは2.6%台まで拡大した。すでにEUとIMF(国際通貨基金)の支援対象国となっているギリシヤ、アイルランド、ポルトガルの経験で言えば、対独ソブリンスプレッドが3%を超えてくると、格下げ→国債価格下落(利回り上昇)→格下げの悪循環に陥る。シティグループでは財政危機のスペインへの波及はあくまでもリスクシナリオと考えているが、実はそのリスクは「今そこにある危機」となりつつある。

 

もう1つ看過できないのは、今回、周辺国債が急落した際、ドイツ国債とあわせて、これまでは質への逃避から買われる傾向にあったフランス国債が下落し、利回りが上昇したこと。 ドイツ国債そのものも従来ほどには利回りが低下しにくくなっており、逆にこのところは米国債の利回り低下が目につくようになってきた。

 

従来は、ギリシャ国債を売った資金はスペイン国債に流れ、スペイン国債を売った資金は独仏国債に流れるなどして、ユーロ圏から域外への資本逃避は限られたものにとどまってきたと見られる。独仏国債などへの質への逃避である。だが、今回は独仏国債市場が従来のような充分な受け皿になりえず、投資資金が域外、主には米国債市場へにじみ漏れている可能性があるのではなかろうか。ギリシャ、アイルランド、ポルトガルはそれぞれユーロ圏経済の約2%を占めるに過ぎないが、一方でスペインはユーロ圏経済の約1割を占める域内第4位の経済大国。欧州金融安定化制度(EFSF)など既存の金融支援の枠組みでも対応できるのはポルトガルまでで、万一スペインが危機に陥った場合、救済できる余力はないと言われている。

 

こうした中で、今回、スペインの対独ソブリンスプレッドが重要な目安となる3%に接近。市場がスペインへの危機波及を具体的に警戒し始めたことで、いよいよ独仏市場に収まりきれなくなってきた逃避資金が、米国債市場など域外へ漏れ出始めた可能性がうかがえる。こうした資金の流れの変化は為替市場ではユーロ安ドル高要因として作用する。だが、同時に、質への逃避から買われた米国債の利回り低下を促すことから、日本円を含めユーロ以外の通貨に対しては全面的な米ドル安圧力を高めることになりかねない。

米ドルにも再反落のリスク

4月以降、ユーロ/ドルは1.4大台の高値圏で、三角保ち合い(トライアングル)を形成し始めている格好で、現在、その上限は1.45前後に下限は1.41前後に位置している。その下限を下抜ける可能性が高まるだろうが、この場合、テクニカル分析的な下値目途は粗々1.32前後と試算される。

 

一方、ドル/円に関しては、そもそも震災後に先物予約を手控えていた本邦輸出企業のドル売り圧力が、サプライチェーンの回復に伴って高まっている。しかも、7月初発表された日銀短観(6月調査)によると、輸出企業の社内想定為替レートは前回(3月調査)の84円水準からQO円台半ばまで引き下げられている。社内レートを確保できるQO QQ円台でのドル売りは一段と重くなるはずだ。こうした中で、欧州に絡んだ質への逃避が米市場金利を低下させる場合、ドル/円も一時的に80円台へ再反落するリスクを高めることになりかねない。 

為替相場(FX)では、イベント前のポジション調整動向の流れが加わると、ユーロなどの主要通貨が値を下げる動きを強めることが考えられる一方、スイスフランの上昇が更に続き、また主要通貨に対するドル買い戻しの影響でドル円は底堅く推移することとなろう。しかし、メインイベントとなる米雇用統計の結果次第の面も強く、好結果となった場合にはドル買いの流れが、悪い内容となった場合にはドル売りの流れが強まると考えられており、波乱の値動きとなる点に注意したい。ただし、どちらの結果にしても次回米FOMCでの景気刺激策実施への期待感が残る格好になると思われ、株価の暴落と言った突発事項がない限りリスク回避の巻き戻しへの意識派続くことになろう。